ワールド2016 ペアFS

ワールド2016 リザルト
2016年の世界選手権は、アメリカのボストン、TDガーデンで開催され、ペアのフリー・スケーティングは、現地時間で4月1日(金)に行われた。

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ライストの調子が悪くて、ペアのFSはJスポーツの放送でしか見られなかった。
Jスポーツの解説は岡部由起子さん、実況は赤平大アナ。
特に印象に残った選手の演技について、感想を書いていきます。

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●第1グループ
2 ヴァレンティナ・マルケイ/オンドレイ・ホタレク(イタリア)

  • SP順位:13,得点:59.76
  • 楽曲:追憶,ステイン・アライブ,ディスコ・インフェルノ

ユーロで拒絶反応が出た編曲だが、あらかじめそういうもんだと心構えしてみれば、まぁ大丈夫だった。
いろいろミスはあったが、後半のディスコ音楽に乗ってのキレキレダンスを見ると、ミスを忘れてしまう。岡部さんが言うには、ノリノリで踊っているお客さんもいたらしい。
赤平アナによると、このトンデモ編曲は、「見ている人を1970年代に連れていきたい」というコンセプトなのだそうだ。それと、自分たちはドラマティックな方がいいのかパワフルな方がいいのか模索中で、両方混ぜたプログラムを作ってみたらしい。……だからといって、「追憶」と「サタデー・ナイト・フィーバー」を一緒くたにするというのは、いくらなんでも乱暴すぎやしないか。
ホタレクさんは、パワフルな方が合ってるんじゃないかなと考えているとのこと。まぁ、「追憶」か「サタデー・ナイト・フィーバー」かと言えば、圧倒的に後者だとはわたしも思う。
岡部さんは、「カップル競技では、女性のキャラクターが見えやすいので、この組は、パワフルで大人のプログラムが合うのでは?」と話していた。
フリー110.97、総合170.73。

4 タラ・ケイン/ダニエル・オシェイアメリカ)

トリプルツイストの高さがなく、女性を抱えるようなキャッチになったのと、スロー3Lzで転倒があったが、他のエレメンツはクリーンだった。
つなぎのムーブメントが全て音楽に合っていて素敵だった。
岡部さんいわく、「もう少し感情が入ってくると、『オペラ座の怪人』の曲をもっともっと素敵に演じることができたのではないか」とのこと。
フリー118.96、総合178.23。

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●第2グループ
5 ニコル・デラ・モニカ/マッテオ・グアリゼ(イタリア)

  • SP順位:11,得点:65.32
  • 楽曲:Cosmic Journey ("Romeo and Juliet") by Abel Korzeniowski

3T+2Tで、二人の跳ぶタイミングがずれてしまったのと、スロー3Sで両足着氷になってしまったのを除けばクリーンな演技だった。
SP後のインタビューによると、このプログラムは、音楽は現代版ロミジュリを使用しているが、「男性が女性を宇宙に連れていく」というコンセプトで、ロミジュリとは全く関係のない物語らしい。だから楽曲名も"Cosmic Journey"だったのかー。
岡部さんが言ってたように、余裕が出てきて、二人の滑りもユニゾンもよくなったのだが、だからこそ、フリーレッグの上げ方のちょっとしたズレが気になるようになってきた。ここがぴたっとそろうようになると、もっともっと素敵になると思う。
フリー118.49、総合183.81。キスクラで、選手たちもコーチたちも嬉しそう。よかった〜。

6 ヴァネッサ・ジェイムズ/モーガン・シプレ(フランス)

わたし、この組って、ペア屈指の美形だと思うのだが、他でそう言われるの聞かないんだよなー。二人とも、顔も体もめっちゃ美しいよね?
3T+3T<<で跳ぶタイミングがずれ、2Sになってしまったのと、スロー4Sで転倒した以外はクリーンだった。でも、大技を失敗してしまい、二人とも悔しそう。
彼らは今季、GPフランス大会で2位になり、初めてGPSの表彰台に上がった。実力を発揮できれば、GPS表彰台の常連になりうる組に成長したんだなぁ。嬉しい。この悔しさを糧に来季もまた頑張ってほしい。
フリー119.14、総合185.83で、総合得点は自己ベスト更新。

7 カースティン・ムーア=タワーズ/マイケル・マリナロ(カナダ)

現代版ロミジュリ3組目。3組も続くって珍しい。
3T+2T+2Tの予定が、男性がセカンドでステップアウトして、3T+2Tになったのと、スピンでトラベリングしてポジションチェンジがズレたのと、3Sで女性がお手つきしたのを除けばクリーンな演技だった。
岡部さんいわく、「前のパートナーと組んでいるときにはなかった、力強さが表現できるようになってきた」とのこと。組んで2シーズン目に入り、彼らならではの個性が出てきたなーと感じた。
フリー124.84、総合190.90で、SPもFSも自己ベスト更新。この大舞台で両方PB出すなんてすごいな! おめでとう!

8 チェン・ペン/ハオ・ジャン(中国)

  • SP順位:12,得点:60.01
  • 楽曲:オペラ「真珠採り」

いろいろミスはあったけど、今できる精いっぱいの演技だったのではなかろうか。
SP後のインタビューによると、男性がGPFで骨折して3か月練習ができず、練習を再開できたのは3週間前だったらしい。
今はどこもかしこも怪我だらけだなー(泣)。特にペアは怪我が多くて胸が痛む。
岡部さんいわく、「大人のプログラムなので、滑り込んだ演技が見たい」とのこと。まったくもって同感である。
フリー122.45、総合182.46。

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●第3グループ
9 アレクサ・シメカ/クリス・クニエリム(アメリカ)

ソロジャンプとスロージャンプでミスが続いてしまった…(泣)。転倒も1回あり。ジャンプ系は得点源なので、この4つのエレメンツでミスしちゃうと得点が伸びないんだよなぁ。母国開催のワールドで実力が発揮できず、残念でならない。
フリー118.69、総合190.06。キスクラで二人ともガッカリしてる…。でもクニエさんが落ち込むシメカさんの肩を抱いて励ましててほっとした。もう少しで結婚だもんね。

10 クセニア・ストルボワ/フェドール・クリモフ(ロシア)

  • SP順位:5,得点:73.98
  • 楽曲:Man and Shadow (The Unknown Known soundtrack) by Danny Elfman

大きなミスは、女性が3Sで転倒しただけだったのだが、演技終了後、うなだれる二人。
コリオシークエンスで、二人が違う動きをしているのにユニゾンを感じさせるあたりはさすがの演技だったのだが、GPFでパーフェクトな滑りを見ているので、ちょっと物足りなさを感じた。見る方はどんどん贅沢になっちゃうんだよね。十分素敵な演技だったのにごめんね(平伏)。
岡部さんが、「他の組にはない、研ぎ澄まされた雰囲気がある」と話していた。
フリー140.50、総合214.48。

11 リュボーフ・イリュシェチキナ/ディラン・モスコヴィッチ(カナダ)

3Sで女性がシングルになってしまった以外は完璧だった。素晴らしかった。
リュボさんが、こんな多幸感を与える滑りができるようになるなんて! 岡部さんも、「カナダに移住してから表情も滑りもやわらなくなって、今までの彼女からは考えられないようなやわらかさの出たプログラムを滑っていた」と言っていた。
氷上でもキスクラでも、温かな雰囲気の二人なので、きっと素敵な関係が築けてるんだろうな。
フリー131.35、総合199.52で、SPもFSも自己ベスト更新! もう少しで200点超え!
リュボさんがめっちゃ笑顔で喜んでる〜。ガッツポーズまで出たよ!

12 エフゲニア・タラソワ/ウラジーミル・モロゾフ(ロシア)

  • SP順位:6,得点:72.00
  • 楽曲:ショパンの音楽セレクション

ミスらしいミスは、3Sで男性がお手つきしたぐらいで、ほとんどノーミスの演技だった。まだ若いのに、エレメンツの質の高さがほんと素晴らしい。
岡部さんいわく、「この二人の最大の特徴は、動きも見た目も軽やかなことだが、それを最大限に生かした選曲をした」とのこと。
ユーロでも思ったことだが、プログラム後半の「革命のエチュード」は激しい曲想なので、もっと力強さがほしい。
フリー134.27、総合206.27で、どちらとも自己ベスト更新。あ、タイムバイオレーション取られてる! もったいない〜。

第3グループが終わって、トップはストルボワ&クリモフ。

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●第4グループ
13 ウェンジン・スイ/コン・ハン(中国)

スロー4Sで女性が転倒、3Sの予定で女性がダブルになるミスはあったが、「そんな細けえことはどうでもいいんだよ!!」と言いたくなる演技だった。すっっっっばらしかった。もうもうもうもう! わたしは彼らの虜!!
岡部さんが感動した様子で「大人の滑り、表現の仕方、曲のニュアンスまでも表現してくるペアになった」と語っていた。
わたしが彼らを認識したのは2010年のジュニアGPFなのだが(生観戦していた)、あれから6年後、こんなに素敵なペアに成長したなんて! 感慨無量である。
フリー143.62、総合224.47で、SPもFSも自己ベスト更新! 現時点で総合1位。

14 メーガン・デュハメル/エリック・ラドフォード(カナダ)

  • SP順位:2,得点:78.18
  • 楽曲:Hometown Glory

まさにパーフェクトな演技だった。ミスが全くない。スロー4Sと3Lz、3T+2T+2Tという難しいジャンプ構成を完璧にやりとげただけでなく、全てのジャッジが全ての要素にGOEで0以上を付けている(しかも0が少ない)。
選手二人はもちろん、場内もコーチも大喜び。
フリー153.81、総合231.99で、SPもFSも自己ベスト更新! 現時点で総合1位!

15 アリョーナ・サフチェンコ/ブルーノ・マッソ(ドイツ)

  • SP順位:4,得点:74.22
  • 楽曲:Sometimes

トリプルツイストの高さがすごすぎて、会場も実況陣もどよめく。来季からクワドやってくるんじゃないか。というかやってきてほしい。この高さのクワド・ツイストが見たい〜見たい〜。岡部さんも「お手本中のお手本。これにGOE+3をあげなかったらどこにあげるんだ」と言う出来栄え。もちろん全てのジャッジが3を付けていた。
ミスと言えば3Sの予定がダブルになったのと、スロー3Fで両足着氷したくらい。
中盤のコリオシークエンスで、ジャッジを正面にして男女が左右対称に動いているのが独創的でかっこよかった。
ユーロでは、リフトで2つノーバリューになるというミスをしてしまい、マッソさんはヘコみまくっていたが、今回はリフトもばっちり決めて、演技終了後、二人ともすごく嬉しそうだった。
フリー141.95、総合216.17で、総合得点は自己ベスト更新。現時点で総合3位。

16 タチアナ・ヴォロソジャル/マキシム・トランコフ(ロシア)

  • SP順位:3,得点:77.13
  • 楽曲:映画「ドラキュラ」より

第3グループからずっといい演技が続いていたところに、最終グループ最終滑走の五輪チャンピオン登場!で、会場のボルテージも最高潮だったのではないかと思われるのだが……うーん、それがプレッシャーになっちゃったのかなぁ。
ソロジャンプやスロージャンプにミスが続いて、あれれ?という感じだったところにリフトがノーバリュー(泣)。リフトの下ろし方が必須要件を満たしていなかったらしい。実況陣も、なぜそうしてしまったのだろうと話している。
フリー128.68、総合205.81。総合6位で決定。

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フリーが終わって、結果は下記のとおり。ここでは16位まで。左から総合順位、名前、国名、総合得点、SP順位、FS順位の順に記されている。

  1. Meagan DUHAMEL / Eric RADFORD CAN 231.99 2 1
  2. Wenjing SUI / Cong HAN CHN 224.47 1 2
  3. Aliona SAVCHENKO / Bruno MASSOT GER 216.17 4 3
  4. Ksenia STOLBOVA / Fedor KLIMOV RUS 214.48 5 4
  5. Evgenia TARASOVA / Vladimir MOROZOV RUS 206.27 6 5
  6. Tatiana VOLOSOZHAR / Maxim TRANKOV RUS 205.81 3 7
  7. Lubov ILIUSHECHKINA / Dylan MOSCOVITCH CAN 199.52 8 6
  8. Kirsten MOORE-TOWERS / Michael MARINARO CAN 190.90 10 8
  9. Alexa SCIMECA / Chris KNIERIM USA 190.06 7 12
  10. Vanessa JAMES / Morgan CIPRES FRA 185.83 9 10
  11. Nicole DELLA MONICA / Matteo GUARISE ITA 183.81 11 13
  12. Cheng PENG / Hao ZHANG CHN 182.46 12 9
  13. Tarah KAYNE / Daniel O SHEA USA 178.23 14 11
  14. Valentina MARCHEI / Ondrej HOTAREK ITA 170.73 13 15
  15. Xuehan WANG / Lei WANG CHN 168.65 15 14
  16. Lola ESBRAT / Andrei NOVOSELOV FRA 137.24 16 16
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◆来季のワールド出場枠

  • 3枠:カナダ,ロシア
  • 2枠:中国,ドイツ,アメリカ,フランス,イタリア

中国が2枠に減ってしまった…。ギリギリ駄目だったんだよなー。つらい(泣)。平昌は是が非でも3枠に戻してもらいたいので、来季のワールド頑張ってください!

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◆総評
デュハメル&ラドフォードは二連覇を達成。今季はジャンプで苦戦していたので、連覇は難しいんじゃないかという下馬評を堂々と覆してくれた。この大舞台でSPとFSをパーフェクトでそろえた上にPBも更新するとは…偉業である。
カナダ勢の連覇は56年ぶりだとか。ペアはロシアが強いもんな。メーガンとエリック、本当におめでとう!!
2位のスイ&ハンは、PCSはトップ。優勝したメーガンたちより上である。 今大会ですっかりファンになってしまった。技術はもちろん芸術性の成長が著しい。2年連続の2位。優勝まであと少し。頑張って!
3位のサフチェンコ&マッソは、初めてのワールドで表彰台に上がるとは。組んでまだ2年目とは思えない。来季もまた個性的で独創的なプログラムで楽しませてほしい。
4位のストルボワ組も素晴らしかったのだが、上の3組が良すぎた。シーズン半ばに怪我があって国内選手権とユーロを休んだから、いろいろ調整が大変だったと思う。来季はとにかく怪我なくシーズン通して試合に出られますように。
5位のタラソワ組にとっては嬉しい結果だろう。着実に力をつけてきているので、あとは個性かなー。来季は、彼らならではの個性をどどーんと打ち出してもらえれば。
6位のヴォロソジャル組は、実力を発揮できず悔しかろう。でも、類まれな個性と技術と表現力をもっていることに変わりないので、焦らず怪我に気をつけて、また素敵な演技を見せてほしい。
7位のイリュシェチキナ組と8位のムーア=タワーズ組は、同じカナダのデュハメル組と同様、SPもFSも自己ベスト更新の素晴らしい結果だった。カナダ3組とも、ベストパフォーマンスが披露できて、最高のワールドだったのではなかろうか。
カナダは、この3組に加えて、セガン&ビロドーがいるという「嬉しい悲鳴」状態である。来季のワールドどうすんだ。この4組のうち、1組出場できないんだぜ。過酷だー。

ペアのFSも、SP同様、素晴らしい演技がたくさん見られて幸せだった。それぞれの組が自分たちの技術と個性を磨き上げた滑りを見せてくれてドキドキワクワクした。ペアも4回転に挑戦する組がどんどん増えて、進化のスピードが凄まじいけど、怪我にはくれぐれも気をつけてほしい。健康第一!